King’s Diary

ある葬儀屋の日記です。創作です。

2253/05/14

  アネットは本当にヒーローになりたいのか疑問だったが、今日の出来事でその疑問が少し解消された。

 

株式会社King's Aria 代表取締役

アネット・キング

 

「これは?」

「私とお父さんのHEROマネジメント事務所」

「初耳だ。会社登記はもう済ませたのか?」

「済ませた。とりあえず形だけだからまだ資本金は1円だけだけど」

「アネット。君はヒーローになりたいのか?会社を経営したいのか?」

「両方。ヒーローはアビリティーだけじゃやっていけないから、自分たちでなんとかできるように会社を作って経営しないとやっていけないと思う。引退したHEROのその後って、辛い目に遭ってる人いるんでしょ?」

  そういえば、年末のTV特番では引退したHEROのその後の人生を追ったドキュメンタリーが放送されていた。たいていは本人のアビリティには関係ない仕事を第二の人生として選択しており、苦労する様子がうかがえた。アネットなりに思うことがあったのかもしれない。そんなことを考えていたらアネットから聞かれた。

「お父さん。お父さんの会社の決算書が公表されてるけど、質問していい?」

「どうぞ」

 

  迂闊だった。固定資産と減価償却の不自然さをついてくるとは思わなかった。アネットに詰められた。会社において不正帳簿は絶対にあってはいけないと習ったのに、身内がこんなことをしているなんて情けなく恥ずかしいと。

  アネットに真実を打ち明けるべきか。隠し通して自分が汚名をかぶるか。迷ったが、後者を選んだとしてもアネットは到底納得しないし、結局「脱税をしている犯罪者の娘」という汚名をアネットが味わうのだとしたら、実質選択肢は無かった。

 

「アネット。断じて私は脱税などしていない。King's Roadの代表取締役としてこれだけは宣言する。だから今から私は真実を話す。ただし。これから私が話す事は絶対に秘密にしてほしい。私以外の誰にもしゃべるな。君の恋人、君の友人、誰にもだ。そして、この話を聞いたら、君がキングスロードの代表取締役に就任することを承諾したものとみなす。もちろん業務の引き継ぎは行うから、そこは心配しなくて良い」

「…は?何言ってるの?意味がわからないんだけど」

「だろうな。だが私はそうとしか言えないし、正直話したくないと思っている。アネット、君に身の危険が及ぶからだ。だが、私は君を信じることにした。君のHEROとしての能力は今や私よりも十分強い。それであれば、自力で火の粉を振り払うことができると信じてのことだ」

 

  アネットの顔から引きつった笑みが消えた。私が嘘をついていないのだと信じてもらえたらしい。どれぐらいの時間が経ったのか、私にはわからない。

  アネットが言った。

「話して」

私はこのキング家に代々伝わる会社のもう一つの顔と帳簿の真実をアネットに話した。

 

  こうしてアネットは3代目King's Road代表取締役とKing's Ariaの代表取締役になった。もっとも、もともとやりたかったのはKing's Ariaなのだから、そこはアネットの意志を組み、King's Roadについては私が会長としてもうしばらくマネジメントを行うつもりだ。まさかこういう形で引き継ぐことになるとは思わなかったが。