King’s Diary

ある葬儀屋の日記です。創作です。

2256/11/03

 アネットが連れてきた婚約者の名前はルドルフ。薬剤師で子供好きだと聞いていた。実際に会ってみると表情がとても柔らかく、子供にも人気あるというのが少しわかる気がした。ただ、レストランで料理を味わうという目的は叶わなかった。

「アネットさんと結婚させてください!」

  着席して開口一番、ルドルフ君が大きな声で私に挨拶した。確かに私はアネットに「結婚の挨拶は最初に済ませたほうがいい、料理の味がわからなくなるから」とだいぶ前にそれとなくアドバイスをした記憶がある。だが、そういうことじゃない。もっとも私にも落ち度があった。レストランのウェイター、客という客がこちらを振り向いた。個室のあるレストランを予約しておけばこんなことにはならなかった。もっともウェイターも客も、その後の私達をジロジロ見ている様子は見られなかったので、それは幸いだった。

 

  ルドルフ君は相当緊張しているのがこちらからもわかった。ここで酒を勧めて悪酔いするとますますややこしくなりそうだから、酒は私も控えておくことにした。ルドルフ君はやや早口にアネットがいかに素敵かを熱く語った。そのどれもが私が知らないアネットだった。「それは猫を被っているのでは」と冗談交じりに返したところ、

「いえ大丈夫です!猫を被っていません!アネットさんを信じています!」

「むしろ私お父さんの前で被ってるんだけど」

と二人に返された。私にツッコむアネットはどことなく嬉しそうだった。

  それで私は二人の結婚を承諾することにした。すでに2人はしっかりとしたお互いの世界を築いていて、お互いがお互いを思い遣る関係性を築けているのだと思った。

 

  料理に関しては、デザートのカスタードプリンが美味しかったことしか覚えていない。だかそれ以上に大事なことは覚えているから問題はない。